核融合の難所は「状態を保つ」ことにもある
核融合発電では、超高温のプラズマをつくるだけでは足りない。高圧で高性能な状態を保ちながら、不安定化やディスラプションを避け、装置が許容できる範囲で運転を続ける必要がある。プラズマの状態は時間とともに変化し、複数の現象を異なる空間・時間スケールで扱わなければならない。このため、計測した情報をもとに短い時間で状態を推定し、磁場などの制御を調整する仕組みが重要になる[1][2]。
ここで注目されているのが、機械学習や強化学習を用いた制御だ。AIに期待されている役割は、単に人間の代わりに操作することではない。実験データやシミュレーションを使って、プラズマが不安定になる兆候を捉え、運転可能な領域を探索し、制御入力を選ぶことである。
DOEのロードマップが示すAIの位置づけ
米国エネルギー省(DOE)は2026年6月、核融合パイロットプラントと商用核融合電力を2030年代半ばに近づけるための核融合科学技術ロードマップを公表した[1]。これは商用化の確定時期を示すものではなく、政策上の目標と、そこへ向けて必要な研究・産業基盤を整理した計画である。
ロードマップでは、AI、高性能計算、デジタルツイン、先端製造などが、核融合炉の設計・実験・運転をつなぐ基盤として位置づけられている。AIや機械学習の用途としては、リアルタイムのプラズマ制御、実験パルス間の最適化、予測モデル、診断データの統合などが挙げられている[1][2]。
特に重要なのは、AIが単独のソフトウェアとしてではなく、診断機器、高性能計算、制御系、デジタルツインと結びつく構想になっている点だ。
DIII-Dで示された不安定性回避
AI制御の実験的な成果として、査読論文で報告された米国のDIII-Dトカマクの研究がある。研究では深層強化学習を用い、ティアリング不安定性が発生する可能性を抑えながら、高いプラズマ圧力を維持する制御実験が行われた[3]。
この研究で示された意味は、AIが特定の実験装置上で、プラズマの状態に応じた制御を実際の運転に結びつけ、不安定性を避ける方向へ働かせたことにある。
ただし、ここから「AIが核融合炉を自律運転できる」と結論づけることはできない。成果はDIII-Dという特定の装置、観測できる状態、設定された制御対象のもとで得られた実証であり、別の炉型や異なる運転条件に同じ性能が現れるかは不明だ[3]。
HL-3で示された1kHzの制御軌道
別の査読研究では、中国のHL-3トカマクの放電ログから学習したデータ駆動モデルを使い、強化学習によって制御軌道を生成する方法が示された。研究では、1kHzの制御軌道でプラズマ電流と境界形状を追跡する結果が報告されている[4]。
この成果は、AI制御を考えるうえで「実時間性」が論点になることを示す。一方で、1kHzの制御軌道を生成できることと、発電炉の全体を安全に制御できることは同じではない。学習範囲を超えた状態での判断、異常時の安全側への移行、診断の欠落や制御遅延への対応は、別途検証が必要になる[4][5]。
「自動操縦士」より先に補助制御か
AIは核融合炉の「自動操縦士」として一気に普及するというより、まずは不安定性の早期検知や、運転可能な領域の探索を担う補助制御として発展する可能性がある。これは確認された事実ではなく、実験成果とロードマップから導く仮説である。
ITERに関する報告でも、データが少ない環境で実時間予測や制御を行うことには、独自の難しさがあると説明されている[5]。そのため、物理法則とデータを組み合わせたハイブリッドモデルが重要になる可能性がある。
実用化を左右する検証と冗長性
AI制御を実用化するには、予測精度の高さだけでは不十分だ。判断の不確かさを定量化し、異常時には安全側へ移行できること、モデルの更新履歴を追跡できること、従来型の制御系や独立した保護機構と冗長性を持たせることが必要になる可能性が高い[1][2][5]。
AIはプラズマ制御を高速化できても、超伝導磁石、熱排気、燃料循環、材料寿命など、制御以外の課題を解決するものではない。核融合発電の実用化をAIだけで説明するのは適切ではない。
近道ではなく、検証可能な運転基盤
DIII-Dではティアリング不安定性の回避、HL-3ではデータ駆動モデルによる制御軌道の生成が報告されている。これらは、AI制御が実験装置上の具体的な課題に適用できることを示す成果だ[3][4]。しかし、ITERや将来の発電炉でAIが自律的に安全運転を担えることを直接証明したわけではない[3][4]。
現段階での問いは、「AIは核融合をすぐ発電に変えるか」ではなく、「AIを含む制御系を、未知の状態でも検証可能で安全なものとして構築できるか」だろう。AIの価値は、派手な自律性よりも、複雑な運転を再現可能かつ検証可能にする基盤として測られることになりそうだ。